当たり障りなく
少年はものを覚えておけぬ
あらゆることに興味を持てないからだ
3歩歩けば忘れる鳥と競い合っているよう
それでも以前は違っていたようである
雑多な情報が頭の中にこびりついてグルグルと回っていた -他のことは考えられないほどに
彼がその身を縛る柵から抜け出したのはいつだったか
何も考えない時期を過ごした
「何も考えない時期」と言っても難儀なもので何も考えないで過ごしていると何かを考えたくなる
学生という身分を失った者がまず考えることは「自分とは何だ」
自分探しなんて簡単に言うがこれは自分哲学を見つけるまで終わることの出来ない地獄だ
哲学者なんて人種に近づいてしまったら終わり
自分自身が今まで以上にわからなくなりなぜ生きているのかすらわからなくなる
哲学者自身も発狂しているような問題だ
ともかく彼は自分を探している間に気付いてしまった
諦観してしまった
存在するであろうしたであろう幸福をその場で手放した
その代わり今持っている幸福を決して手放さないと決めた
しかし諦観というものが将来彼から沢山のものを奪っていくことはまだ知らない
決して世界に期待しない
自分にも期待しない
どうせ死ぬんだから
どうせ決まっている物語をなぞっているだけなのだから
そんなことを長年考えているとものを考えることすら必要なくなってしまうのである
ものを覚える必要もなくなってしまうのである